2019年の金市場を展望する

13812605_l.jpg

 ここ3年ほど、金価格は1オンスあたり1,200~1,300米ドルの間で動く期間が長く、ボックス圏相場と言ってもよい推移を示してきた。しかしながら、2019年は異なる展開になる可能性が高い。

 ここ数年の金価格に影響を与える要因を、以下にまとめることができる。

 まず、中国、インド、中央銀行という三大需要家グループからの金需要は堅調であり、金相場を支えるプラス要因として評価できる。次に、マクロ経済・政治状況の不確実性がなかなか低下せず、セーフヘブンとして金が注目され、金価格をサポートしたと考えられる。

 一方、マイナス要因として機能したのは、米国FRBの利上げ(金の投資相対優位性が低下する)、実質ドル為替レートの上昇(金価格はドルと逆相関の関係にある)、株式市場の好況(リスクオン時は金に対する注目は減少する)などの金融市場要因である。つまり、金価格にプラスに働く中長期要因(実需、マクロ環境の不確実性)は存在していたものの、マイナスの影響をもたらす短期要因(金利、為替、株式相場)によって、その上昇潜在力が抑えられた感がある。
 因みに、2016年初の金価格は1オンスあたり1,060米ドル、2018年12月17日現在は1,240米ドルであり、金価格は中期的に緩やかに上昇していると見ることもできる。

 2019年については、中長期的に金価格に影響を与える要因である実需に大きな下方リスクは見当たらない。中国やインドの金需要を根本から支えているのは、(投資や贅沢品を購入する余裕がある)中間所得層の増加である。中国やインドの中間所得層は、2030年まで加速的に増加すると様々な権威ある機関が予測している。また、中央銀行セクターにおいて、2018年に新たに10か国前後の中央銀行が金購入を始めたことを考えると、しばらく堅調な需要が期待できる可能性が高い。

 金価格に影響するもう一つの中長期要因であるマクロ経済・政治の不確実性はどうか?Brexitの混乱、米中貿易戦争の行方、極めて不安定な中近東情勢、高株価に対する警戒、ポピュリズム政治の勢力拡大、そして、政治バランスが変化する米トランプ政権の政策遂行能力など、不確実性はむしろ増加する傾向にあると思われる。

 一方、過去数年において、金価格に大きな影響を与えた短期金融要因はこれからどうなるか?
 ピークアウト感がある企業業績、過去最高レベルにある企業負債、予想される信用サイクルの反転(悪化)など、米国株価の行方は楽観できない。大きな(下方)調整局面を迎える可能性も囁かれている。2019年に米国株価が持続的に上昇して、金価格にマイナスの影響を与えるリスクは後退すると思われる。
 また、米国FRBは、2019年以降、米国経済失速のリスクも考慮して利上げのペースを減速・管理していくと見られている。米国の利上げが金価格に与えるマイナス影響も、縮小傾向に向かうと思われる。さらに、経済減速や利上げペースの鈍化が予想される局面において、トランプ政権が景気高揚策やグローバル政治緊張関係の緩和に動かない限り、米ドルは現在のレベルから底上げされ、金価格に大きく不利に働く可能性はそう高くない。

 したがって、金価格に下方圧力を与えてきた短期金融市場要因は、2019年において、これまでの勢いを維持することなく、長期要因によって支えられた金価格の上昇潜在力を抑える力は低下するだろう。金価格はボックス圏を上方に突き抜ける展開は十分にありうる。
 ご参考までに、LBMA(London Bullion Market Association)の最近のイベントで行われた参加者向けアンケートでは、2019年今頃の金価格は平均で1オンスあたり1,532米ドルと予想されている。驚きの数字だが、金市場のモメンタムが変化することを感じさせる結果である。

  • 森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)

    ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。