金価格の行方を考える

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 ここ半年、金価格は1オンスあたり1,350米ドルから1,180ドルを切るレベルまで低下し、現在、1,200ドル近辺で膠着し、方向性を見出しにくい状態が続いている。そこで、金価格に影響を与える要因を再点検し、方向性を考えるヒントとしたい。

 金価格は、長期的に経済成長にリンクし、短期的にはマクロ環境のリスクと不確実性に影響される傾向にある。具体的には、以下の3つの要素に分けられる。

1)富の蓄積と経済成長 -- 経済成長期には、宝飾需要、産業用需要、長期貯蓄需要が増加する、
2)市場リスクと不確実性 -- 市場環境が不安定な時は、セーフヘブンを求めて投資需要が増加する、
3)投資機会コスト -- 競合資産に比べ、金に投資する機会コストが相対的に低下すれば(例えば、金利・為替環境の変化によって)、投資需要は増加する。

 では、現状はどうか?

1)最大需要国である中国・インドの経済成長および中央銀行の金購入

 文化的・宗教的に金とつながりが強い中国とインドは、2000年代中頃に経済成長が加速して中間所得層が激増するまでは、金市場の最主要需要国ではなかった。例えば、2003年の年間金需要を見ると、中国は202トン、インドは575トンであり、両国で全消費者需要の約25%を占める程度であった。その後、両国の市場が急成長し、2017年の年間需要は、中国が953トン、インドが727トンになり、全消費者需要の53%を占めるまでになった。市場成長の牽引力は、両国とも中間層の増加である。しばらくの間、両国の経済は引き続き成長し、金を購入する余力が生まれる中間層が加速的に増加すると多くの専門家が予測しており、宝飾および投資分野における潜在需要は力強いと思われる。こうしたことから、金価格は長期的にさらに上昇する余地があると見ることができるのではないだろうか。

 さらに、第三の需要家グループである中央銀行は、2010年から年平均で約400トン強の金を購入しており、通貨分散や国の流動性(対外支払い能力)の確保など、様々な政策目的の達成に向けて積極的に金を積み増しているところもまだ多く、中期的に金需要・価格をサポートする要因として期待できるのではないだろうか?

2)マクロ環境の不確実性

 ここ数年、世界の経済・政治環境のキーワードは不確実性である。まず、2016年1月、欧州の主要中央銀行に続き、経済を再生軌道に乗せるため、かつてない規模で行われた量的緩和金融政策に加え、日銀はマイナス金利政策を導入すると発表した。しかし、日銀のマイナス金利導入は、各国当局の金融政策の手詰まりを象徴するものとして多くの投資家に捉えられ、マクロ経済環境の不確実性はむしろ増加したと判断された。FRBは金利の正常化に動いているものの、グローバルで低金利環境はしばらく続くと思われる。また、低金利政策下では、債券投資は困難になり、ポートフォリオ投資における債券の投資分散効果(特に対株式において)が大きく低下すると予想されたため、株価と連動しない金は代替として注目されている。さらに、米国の高株価の持続性に対して警戒感を持つ投資家も少なくない。

 政治環境も決して安定的とは言えない。2016年6月に投票された英国の欧州連合からの脱退、同年11月の選挙で誕生したトランプ米大統領など、大きなサプライズが続き、EUの安定性とトランプ政権の予測可能性が投資家の懸念となった。2017年には、オランダの総選挙、フランスの大統領選、ドイツ連邦議会選挙、2018年にはイタリアの総選挙などが行われ、ポピュリズムの高まりが懸念される選挙結果となった。加えて、北朝鮮のミサイル問題や中近東の安定性、米国とイラン・トルコとの対立や中国との貿易摩擦など、地政学リスクが多発しており、根本的に低下する傾向にまだない。

 マクロ環境の不確実性は、金価格を短期・中期的に支える要因となりうる。

3)金利・為替環境

 理論的には、金利が上昇すると、配当や利子を生まない金を保有する機会コストが上昇し、金価格は下落する。しかし、リーマンショック以降、2015年12月を初めに、FRBはこれまでに8回の利上げを実施しているが、金価格はいずれもその直後に上昇しているか、大きく変動していない。つまり、利上げがすなわち金価格の下落につながるという図式になっていない。金市場において、収益機会を狙う短期投資家よりも、不確実性が高い投資環境などへの対応から、金の投資における役割(資産分散効果等)や保険機能(テールリスクヘッジ等)に目を向ける中長期投資家が増加していることが背景にあると考えられる。こうした投資家の多くは、マクロ経済・政治環境の不確実性が根本的に低下しない中、金利が緩やかに上昇するだけで金保有を放出する可能性は高くない。今後、金利正常化に向かう過程で、金価格が下落する局面も当然想定されうるが、利上げ=金価格下落という単純な図式にはならないだろう。

 一方、金価格と米ドルは逆相関の関係にある。ドルの価値が主要通貨に対して上昇すれば、金価格は下落する傾向にあり、その逆も然りである。リーマンショック時に金ETFに流入した逃避資金が、市場の安定とともに再び他主要資産に向かった影響もあるが、2013年から2016年末まで、実質ドルレートの上昇に伴い、金価格は1,650ドル超から1,130ドル近辺まで下落した。その後、ドルが反転し、金価格は2018年第1四半期に1,350レベルを回復した。2018年第2四半期および第3四半期に、ドルが再び上昇し、金価格は1,200ドルを割った経緯がある。最近のドルの強さは、米国以外で引き続き取られている量的緩和金融政策からくる、他国との金利差および貿易戦争の(少なくとも短期的な)受益者が米国であるとの予想が主背景要因であると思われる。しかし、貿易戦争は長期的に米国の経済成長を鈍化させ、FRBの利上げにも限界があるとの見方もある。ドルの方向性は短期的に金価格の行方を決める最大の要因として注目すべきである。

 以上のように、金市場に中長期的な影響を与える環境背景(中国・インド・中央銀行・マクロ環境の不確実性)が根本的に変化する可能性は高くなく、むしろ金価格を下支えする要因としても議論できる。金価格の行方を考えるにあたり、短期的に注目すべきはドル為替レートの方向性になろう。

    • 森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)

      ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。