注目すべきイスラム圏の金投資参入

 長い間イスラム教徒は、金現物・宝飾品を好んで購入・保有してきたが、金融商品としての金(純金積立、金ETF、金ファンド、金先物・オプションなど)とはほぼ無縁であった。その最大の理由は、イスラム法下における金(金融)取引に対する法学的解釈が不透明・欠如していたからである。法解釈が明確になれば、金に親近感を持つイスラム圏の投資家は、金関連金融商品に興味を持つ可能性が高いとの考え方から、金の普及を促進する業界団体であるワールド ゴールド カウンシルは、イスラム金融機関会計監査機構(Accounting and Auditing Organization for Islamic Financial Institution = AAOIFI))に働きかけ、2016年12月に、イスラム法に基づく金投資・金融取引基準の発表に漕ぎ着けた。AAOIFIのシャリーア・ボードは、イスラム金融におけるシャリーアの解釈に関する世界的な権威である。

 具体的には、イスラム圏国における公聴会なども経て、AAOIFIが金と金のトレーディング・コントロールに関するシャリーア・スタンダード No.57を発表した。100%特定保管された金現物の裏付けが必要であるなど、イスラム金融における金投資・取引の具体的なルールが設定され、シャリーアに基づく金投資商品の組成が可能となったのである。他に、金鉱山株への投資も問題ないとされた。しかしながら、初めてとなるシャリーアに基づく金投資商品の新規組成や認定には当然時間がかかるため、2018年にようやく現地発の商品の本格的な導入が始まったところである。現在、ドバイゴールド&商品取引所、マレーシアのBank Muamalat Malaysia Berhad、マレーシアのAffin Hwang Capitalなどが認定金融商品をラインアップしている。その他、世界最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェア、英国の国立造幣局、オーストラリアのパースミント、シンガポールのHelloGoldなども、シャリーア法基準に適合する商品として認定を受けている。今後、現地発の金融商品が加速的に上市される見込みである。

 これまで、イスラム法の定義に適合する選択可能な投資対象が限られていたが、金が加わることによって、投資の効率性が飛躍的に向上すると思われる。実際、幾つかの研究調査によると、金はイスラム株式指数・REITやシャリーア法に基づく保険商品等との相関がほとんどなく、価格変動性も相対的に低いことが明らかにされている。つまり、金を保有することによって、イスラム圏の投資家は新たな投資分散、リスクヘッジ、富の保全手段を手に入れることができる。また、これまで、デリバティブ関連商品(クレジット・デフォルト・スワップ、先物やオプションなど)の利用が禁じられ、金融市場が激変するなどのテールリスク(発生する確率は低いが、発生すると影響が極めて大きいイベント)を効果的にヘッジする手段があまりなかったイスラム投資家にとって、セーフヘブン(質の逃避先)として力を発揮できる金の登場は心強い。金はイスラム圏に新たな投資機会を提供するだけでなく、投資リスクマネジメントにも貢献する資産として期待されている所以である。

 2017年の金宝飾需要のトップテンを見ると、イスラム教国が半分以上を占め(図表1参照)、金との親和性は高い。16億人のイスラム教徒が、投資分野の強力な新需要家グループとして参入してくる可能性は十分にあるため、今後、金需要を考える上で重要な要因となろう。

図表1:金宝飾需要Top10〜2017
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*イスラム圏
(出所)WGC ゴールド・デマンド・トレンド2017年通年より作成
    • 森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)

      ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。