市場とは何か その8

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 7月25日付の米エネルギー情報局のレポートによれば、2018年第1四半期までに米国の利上げ石油開発企業は、2018年と19年の生産量の大半を先物でヘッジしていると書いている。米国の46社の主要石油開発企業の決算書によれば、46社のうち42社は、先物やオプション等のデリバティブを使って、2018年分190万バレル、2019年分70万バレルの生産量を平均52.28ドルと52.44ドルでヘッジしているという。欧米では当たり前のごとく先物は利用されている。日本の商社は当然先物ヘッジを行っているが、商社は早くから国際決済基準を採用し、財務諸表を世界標準に合わせているため、日本の公認会計士は特にヘッジ会計に対してクレームをつけない。これに対し日本の会計基準しか採用していない一般企業に対しては、先物ヘッジに対し理解を示さないことがあると聞く。そのため、現物の評価損益と先物の損益に期ずれが起きているようだ。なぜ日本の公認会計士はヘッジ会計を認めないのかよく知らないが、これも日本の先物取引が世界に後れを取っている一つの要因ではなかろうか。

 日本の石油企業は、購入した原油在庫を日本の会計基準で評価すると、その後原油価格が下がってしまい決算期を迎えると巨額の評価損失が発生する。逆に原油価格が上昇すれば、大きな収益を労せずして得ることができた。過去に原油価格が上昇相場であったころの石油企業の経営者はこうした不労所得を自己の業績として評価していたのであろう。ところが、原油価格が下がった場合に経営者になった人は不運としか言いようがない。不可抗力で大損するからだ。そうしたことは先物を利用している限り発生しない。それを公認会計士は認めないということはどういうことであろうか。

 実は先物取引でヘッジをしていてもリスクがある。それは「直先差」という先物と現物の価格差が一定ではなく、コンタンゴ(現物安の先物高)だった時に先物でヘッジした場合、現物の需給がひっ迫して現物高の先物安のバックワーデーションになると、最初にロックした直先差がロックをほどいたときに正確に反映されなく、ヘッジによる損失が発生する場合がある。それを無くすために、ディーラーは、現物を買って先物で売った場合は、その先物を常に高いところ高いところへと限月を移動させるというキャリートレードを行っている。それでも差損が出る時もあるが、その差損はヘッジをしない時の差損に比べて小さく許容範囲である、あるいは場合によっては差益も出るので相殺できると解釈している。少なくとも経営者はそうしたことを完全に理解していないといけない。

 ある朝、部下のディーラーが突然悲鳴を上げた。何が起きたのかディーラー席の後ろに立って見ていたが、本人は端末をたたきまくり、後ろから眺めていただけでは事情がわからない。後で冷静に戻ったディーラーから事情を聴くと、スイスで購入して東京商品取引所で売ろうと注文を出したところ、一斉に市場から参加者が手を引いてしまい、時の経過とともに、ヘッジすべき価格がどんどん下がってしまったのだという。いわゆるディーラー仲間にはめられた状態だという。責任者としては、いくら損失がでたかを聞いて上司に報告するだけのことであったが、懐が大きいのでその程度の損失は問題にはならなかった。そうした「市場でのスリッページ」という論理的な価格を付けることができないというリスクもあり、こうしたことを考えると、ヘッジと言ってもディーリングの一種であると言えよう。

 失敗談ついでにもう一つ例を挙げると、計算間違いというものがある。LMEの取引で、顧客の契約形態が変わったためヘッジ玉の訂正がたくさん出た。これを間違って市場につないでしまい、翌朝訂正したが、これも大損につながった。不思議なことに、こうした発注ミスで大きな利益を出した覚えはない。相場はミスが損失につながるようにできているのではないかと勘繰りたくなる。発注ミスは、証券会社でも一桁多く注文してしまったなどというミスは尽きないと思われる。

    • 株式会社コモディティー インテリジェンス
      近藤雅世(こんどう まさよ)

      1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
      アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。 商品ファンドを日本で初めて作った一人。
      2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。
      2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンス設立代表取締役社長就任。