利上げでも金価格上昇のなぜ?

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 米連邦準備理事会(FRB)は、3月21日にフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.5%から1.75%に引き上げることを決定した。理論的には、金利が上昇すると、配当や利子を生まない金を保有する機会費用が上昇し、金価格は下落する。しかし、3月21日のFRB利上げ決定後の2日間で、金価格は1オンスあたり約25ドル上昇した。また、リーマンショック以降、今回を含め、FRBはこれまでに6回の利上げを実施しているが、金価格はいずれもその直後に上昇した。金価格と金利の相関が中長期的にほぼないとする研究調査論文が多数発表されているなか、利上げ後に金価格が上昇するここ数年の現象は、構造的な背景があると考えるべきであろう。

 金市場を映す鏡である金ETFの動きに一つのヒントが隠されている。リーマンショック後の金融市場の混乱から、金ETFに逃避資金が大量に流入し、2008年秋に約1,000トンだったその金保有残高は、2013年初頭に約2,800トンまで増加した。一方、金融市場が落ち着きを取り戻せば、金市場に蓄積されている膨大な逃避資金が再び株式市場などに向かうため、金価格はやがて下落することも予想されていた。市場安定性のバロメーターとして、FRBが利上げできる環境が整うかどうかが重視され、米国の経済指標が発表されるたびに、金価格が上下した。実際、FRBの出口戦略が積極的に議論された2013年以降、逃避資金は金ETFから流出し、2015年末にはその保有残高が約1,600トンまで低下した。しかし、FRBが出口戦略の一環として最初の利上げを実施できたのは、2015年12月であった。つまり、FRBの利上げを待たず、利上げを議論できる環境まで経済が回復したことを捉え、逃避資金は金ETFから退場したのである。利上げが実行された時には、価格の下方圧力となる逃避資金の売りというマグマはもはや存在せず、むしろ、金利正常化のスピードが緩やかなものになるとの観測から金価格は上昇したと考えられる。2015年12月以降、金価格は約20%、ETFの金保有残高は約50%増加した。

 利上げがすなわち金価格の下落という図式につながらない要因は、他にもある。金市場では、ここ数年、収益機会を狙う短期投資家よりも、不確実性が高い投資環境などへの対応から、金の投資における役割(資産分散効果等)や保険機能(テールリスクヘッジ等)に目を向ける中長期の投資家が増加している。こうした投資家は、マクロ経済・政治環境の不確実性が根本的に低下しない中、金利が緩やかに上昇するだけで金保有を放出するだろうか。また、今後、各国で金利が上昇したとしても、しばらくは低金利環境であることに変わりがない。低金利・低インフレにおける金のパフォーマンスは、様々な研究調査によって明らかにされている。米国の例になるが、ワールド・ゴールド・カウンシルによると、1970年から2017年の間、インフレ率3%以下だった期間において、金の平均リターンは実質ベースで3%強、名目ベースで5%強であった。つまり、金を保有する機会費用は必ずしも投資を妨げる決定要因とならないのである。言い換えれば、現在の投資環境下では、利上げのデメリットを超える他のメリットを、金が提供してくれると考えている投資家も多いということではないだろうか。

 今後、金利正常化に向かう過程で、金価格が下落する局面も想定されうるが、利上げ=金価格下落という単純な図式にはならないだろう。また、利上げが金価格へ与える影響は、しばらくは、増幅されるより減少に向かう可能性がある。

    • 森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)

      ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。