需要減でも価格上昇〜2017年金需要の見方

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リーマンショック以降、金の年間需要はそれまでの3,000トンから4,000トン強で推移してきた。2017年も4,000トン台に乗ったものの、前年比7%減の4,071.7トンであった(図表1を参照)。これまで、金価格は需要減を速やかに織り込む一方で、需要増に反応することはほとんどなかった。しかし、金価格は2017年に1オンスあたり約150米ドル (13%) 上昇し、需要減に影響された形跡がない。なぜか? その主要因は3つある。

【図表1 2017年金需要】
(単位:トン)宝飾地金・金貨ETF等中央銀行テクノロジー全需要
20162053.61048.7546.8389.8323.44362.2
20172135.51029.2202.8371.4332.84071.7
変化率+4%-2%-63%-5%+3%-7%

出所:Gold Demand Trend 2017通年, World Gold Councilより作成

1. 需要減の最大要因は、金ETFへの資金流入の鈍化であった。過去2番目に高い資金流入があった2016年に比べ需要が63%減少したものの、高株価に対する警戒感、地政学リスクに対する懸念、ゼロ金利・低金利政策がもたらす影響など、投資環境の不確実性が構造的に解消されないことを受け、リスクヘッジ機能がある金に引き続き約203トンもの強いETF需要が2017年に新たに生じたこと。さらに、短期の収益機会を追及する短期投資家が減少し、投資における金の役割を評価する中・長期投資家の増加も、需要減より金ETFの底堅さを市場に意識させる結果となった。

2. 金消費者需要の半分超を占める中国とインドが、ここ数年来に直面していた構造問題を乗り越え、需要に回復基調が見えてきたこと(図表2を参照)も市場に安心感を与えた。中国では、よりデザイン性の高い宝飾品を求める顧客の需要に適合する業界の商品戦略がようやく整い、宝飾需要が2013年以来の増加となった。また、インターネットやSNSなどを利用した新しい取引形態が導入され、商品を購入できる店が近くにない農村部や、少額取引でなければ顧客になりにくい若年層の需要を取り込み始める体制が始動した。インドでは、金輸入規制を始め、廃貨政策の実施、物品サービス税の導入、マネーロンダリング対策の適用など、政府方針が金市場にもたらす混乱が徐々に収まり、宝飾および投資需要がともに増加に転じた。両国の復調は、需要の力強さとして捉えられた。

【図表2 中国・インドの金需要】
中国20162017変化率
宝飾630.4646.9+3%
地金・金貨284.6306.4+8%
インド20162017変化率
宝飾504.5562.7+12%
地金・金貨161.6164.2+2%

出所:Gold Demand Trend 2017通年, World Gold Councilより作成

3. 1990年代および2000年代を通して金を売却した中央銀行セクターは、外貨準備におけるさらなる通貨分散を主要目的として、2010年以降、平均して年間400トンもの金を購入している。金は、米ドル、ユーロに続く、第三の準備通貨である。2017年の純需要は前年比で5%減少したものの、中国、インドに続く購入量(371.4トン)は、中央銀行が目標とする通貨分散までさらに金保有を高める必要があることを示す。さらに、ベネズエラ政府が外貨(ハードカレンシー)獲得のために金を裏付けとして実行したドイツ銀行とのスワップ取引は(約45トン、統計上は中央銀行の売却)、中央銀行が非常時の金を保有する意味やインセンティブを再認識させるものとなった。

以上のように、2017年の需要減は構造的な弱さとして捉えられることなく、市場は冷静に反応し、金価格に大きな影響を与えることはなかった。また、金鉱山の生産量はほぼ前年並みに推移し、今後は減少に向かうと思われる。需給バランスの悪化を市場が意識したことも考えられる。

    • 森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)

      ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。