イランの経済封鎖解除の続行か停止か

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<イランの経済封鎖解除の続行か停止か>

 トランプ米大統領は7日、イラン核合意からの離脱の是非に関する決定を8日に発表すると明らかにした。

 イランと欧米など関係6カ国は2015年に、イランが経済制裁の解除と引き換えに核開発の制限を受け入れる核合意を結んだ。しかしトランプ大統領はイランが合意を守っていないと主張。イスラエルもイランが密かに核兵器開発を続けている証拠があると訴えている。一方、国際原子力機関(IAEA)はイランが合意を順守しているとの立場。

<米議会による見直しルール>

 米国議会はイランとの核合意による経済封鎖の解除を120日ごとに見直すことを政府に義務付けている。トランプ大統領はトランプ政権は昨年10月と今年1月、イランが核合意を「順守していない」との判断を初めて示す一方で、制裁再発動は見送った。ただ1月には再発動の見送りは「これが最後」とし、次回の報告時期の5月までに欧州諸国と議会に対応を求めた。その期限が来週の5月12日に迫っている。

<過去の経緯>

 イランは1990年代テヘランの核関連施設における実験で少量のプルトニウムの抽出に成功した。2003年以降国際原子力機関(IAEA)や国連安全保障理事会はイランの核開発中止を求める決議を何度も採択したが、その間にイランの核開発は着々と進み、2010年には核弾頭を開発中とIAEAの報告書は述べている。サウジアラビアとエジプトにも核開発に着手せざるを得ないと述べさせた。

<イランに対する経済制裁>

 2012年欧州連合の経済規制により、外国貿易、金融サービス、エネルギー関連会社や技術分野での、イランとの商取引が減少した。欧州連合はイラン及びイランの会社に保険を提供することを禁止した。2012年1月23日に、同年7月より、イラン産原油に制限を加えて、イラン中央銀行の資産を凍結することとした。翌月に、イランが先制の手段を講じて、イギリスやフランスへの原油輸出を停止した。

 アメリカは武器販売を禁止し、ほぼ完全なイランとの経済活動の禁止を行っている。その中には、イランとの商取引を行う会社への制裁、イランからあらゆる製品の禁輸、イランの金融機関への制裁、イランの航空機産業との商取引の禁止が含まれている。イランと取引する場合は、財務省から特別な許可を必要としている。

<穏健派ロウハーニー師の登場>

 2013年イランでは、アフマディーネジャードがイラン大統領を退任。後任に穏健派と目されるハサン・ロウハーニーが就任。

<核開発合意と経済封鎖の解除>

 2013年11月24日 イランと国連安保理常任理事国とドイツの6カ国が核開発の透明性を高める代わりに対イラン制裁の一部を緩和する「第1段階の措置」で合意。
 2015年7月14日 米欧6ヵ国とイランの核協議が最終合意に達する。2016年1月16日、国際原子力機関(IAEA)はイランが核開発問題を巡る最終合意に従い、ウランを濃縮する遠心分離機を大幅に減らしたことなどを確認した。これを受け、イランと米欧など6カ国は核開発問題を巡る最終合意の履行を宣言した。
 イランが核開発を制限するのと引き換えに、欧米諸国がイランに対する経済制裁を解除するという「包括的共同作業計画」だ。

<トランプ大統領の取り巻きの意見>

 トランプ大統領は選挙戦のときから、イランとの核合意はアメリカが締結した「最も愚かな」合意の1つだとして、その「解体」を約束してきた。それでもジェームズ・マティス国防長官ら閣僚に説得されて、これまでは離脱を思いとどまってきた。
 これまでマティスと共に、合意維持を訴えてきたレックス・ティラーソン国務長官とH・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が、それぞれマイク・ポンぺオとジョン・ボルトンという対イラン強硬派に交代したことで、トランプ大統領が合意から手を引く可能性は一段と高まったように見える。

<欧米の意見>

 4月には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やドイツのアンゲラ・メルケル首相らヨーロッパのリーダーがワシントンにやって来て、合意維持をトランプに訴えた。だが、トランプは離脱をほのめかす発言をやめず、マクロンが提案したイランにもっと厳しい条件を課す「新合意」に向けた動きも進んでいない。英国も関係国と調整を続けている。中国とロシアは合意維持を求める共同声明を出した。日本は西側主要国の中で歴史的にイランと良好な関係を維持してきている。

<イランが可能とされる対応(ロイター)>

① イランの理想は、イラン自身は核合意の枠内にとどまって、引き続き核開発活動を制限し続けることだ。そうすれば合意参加国であるイギリス、ドイツ、フランス、中国、ロシアからアメリカを孤立させることができる。

② 80年代に核開発に着手して以来、イランは長い時間をかけて、少しずつ着実に計画を進めてきた。国際社会を刺激したり、アメリカの軍事行動を誘発したりする派手な活動は控えた。その結果、イランはウラン濃縮技術を手に入れることができたし、濃縮ウランの貯蔵量を増やし、その気になればすぐに核兵器開発に移行できる状態を維持することに成功した。

イランが、直ちに国連の査察を全面的に拒否したり、兵器級ウランの獲得に乗り出す可能性は低い。核拡散防止条約(NPT)を脱退することもないだろう。その代わり、高度な遠心分離機の使用や濃縮ウラン貯蔵量の拡大など、これまで核合意によって封じられてきたことを少しずつ実行する可能性が高い。そして、核合意に基づいて受け入れてきたような厳しい査察には応じなくなるのではないか。これは国際社会がイランの核開発活動を把握する上で大きな打撃となる。

③ 一方、トランプ大統領が核合意からの離脱を決めて、制裁を復活させたとしても、思いどおりの結果を得られる保証はない。確かに多くの外国企業がイランから出て行くだろうが、アメリカ以外の国は国内の政治的反発に配慮して、アメリカの制裁に積極的に協力しないかもしれない。

とりわけロシアと中国は、制裁復活に反対するだろう。なかでもイラン産石油の最大の「お得意様」である中国が、輸入量を減らす可能性は低い。中国の石油調達が滞れば世界経済がマイナスの影響を受けるから、たとえ中国が従来の輸入量を維持してもアメリカがペナルティーを科すことはない――。中国政府はそう踏んで、アメリカの制裁を無視することも考えられる。

④ それどころか、アメリカが核合意を離脱すれば、イランではアメリカ相手に外交などしても無駄だという見方が圧倒的に強くなり、ますます交渉に応じなくなる。イラン国内では、国際協調路線を取ってきた穏健派の影響力が低下して、強硬派の発言力が強まるに違いない。
そうなれば、イランは挑発的な行動を増やすだろう。弾道ミサイルの発射実験を行ったり、中東の攪乱要因であるシリア内戦への介入や、レバノンの武装組織ヒズボラやイエメンの反政府武装勢力ホーシー派への支援を拡大する可能性もある。国内では二重国籍保有者、特にアメリカ国籍者に対する弾圧を強化するかもしれない。
つまりアメリカが核合意から離脱しても、すぐに危機的状況にはならない。しかしイランはこれまで制限されていた活動を再開して、着々と核兵器獲得に近づくはずだ。アメリカは国際的な影響力を失い、制裁を復活させてもイランに方針転換を強いるほどの打撃を与えられない。

<制裁に関する四つの選択(ロイター)>

① 制裁解除を再継続:
トランプ氏は1月と同様にイランの中央銀行と石油輸出に対する制裁解除を継続する。一方でトランプ氏が指摘する合意上の不備に対応する付帯決議についてドイツ、フランス、英国との協議を続ける。

② 制裁解除を打ち切り:
トランプ氏は制裁解除を打ち切る。この場合、解除打ち切りから180日後に制裁違反に対する罰則が発効し、合意に加わっている欧州諸国が解除継続の是非を判断する。欧州諸国は合意を支持している。
このケースでは、イランは核開発制限への合意を今後も順守するかどうか判断を迫られる。

③ 制裁解除をいったん打ち切り、再検討:
トランプ氏は制裁解除をいったん打ち切るが、欧州諸国が米国と付帯決議で合意すれば制裁違反に対する罰則が発効する前に解除を再開すると発表する。この場合も核合意に従うかどうかの判断はイランに任される。

④ 制裁解除を打ち切り、イランは合意に違反と表明:
トランプ氏はイスラエルが示したイランが密かに核兵器開発を続けている証拠に言及し、イランは合意に違反していると主張、制裁解除を打ち切る。その後米国はイラン核合意に盛り込まれた紛争解決手続きを使い、国連の対イラン制裁の「スナップバック(復活)」を求める。

<原油価格への影響>

 仮にトランプ大統領がイランへの制裁の解除を打ち切ったとしても、心理的な原油価格への一時的影響はあるとしても、需給に与える長期的な影響は少ないと思う。なぜなら、中国が制裁解除継続を表明しており、イランにとっては中国が最大の原油輸出国になっているからだ。また、前回の経済封鎖による、イランにとっての最大の痛みは欧州各国が行ったイラン産原油の輸入禁止措置と、貿易保険の停止であった。今回は欧米各国が米国の経済封鎖再開に乗っていない。つまり、欧州は、自国にも痛みを生ずるイラン産原油の輸入禁止措置は行わないものと判断され、米国のみがイランとの通商交易を遮断したとしても、中国や欧州の石油市場がある限り、イランの石油業界にとっては何の痛痒もないだろう。石油に影響しない経済封鎖であれば、イランに反米の反感を植え付けるのみであり、実効性は乏しい劇場的効果しかないものと思う。

    • 株式会社コモディティー インテリジェンス
      近藤雅世(こんどう まさよ)

      1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
      アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。 商品ファンドを日本で初めて作った一人。
      2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。
      2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンス設立代表取締役社長就任。